キューライス記

漫画家、絵本作家、イラストレーター、ときどきアニメーション作家のキューライス(坂元友介)のブログです。

2016/12

2016年の出口がやってまいりました。そして、2017年の入口がやってまいりました。 改めて「2017年」って口に出すとものすごく未来に生きているような気がするのに、まわりは相変わらずアナログでその落差に驚きます。 というわけでさよなら2016年。 ... MORE

2016年の出口がやってまいりました。そして、2017年の入口がやってまいりました。

改めて「2017年」って口に出すとものすごく未来に生きているような気がするのに、まわりは相変わらずアナログでその落差に驚きます。

というわけでさよなら2016年。

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やさしい世界。   ... MORE

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やさしい世界。

 

今日はクリスマス。私は朝からずっとMacにしがみつき、新作アニメーションの着色作業をしている。 お昼ご飯はブリの照り焼きを作った。   そんなクリスマス気ゼロの私が、せっかくクリスマスなのだからそれらしい記事をと思い、今日は「ジーザス・クライスト・スーパースタ ... MORE

今日はクリスマス。私は朝からずっとMacにしがみつき、新作アニメーションの着色作業をしている。

お昼ご飯はブリの照り焼きを作った。

 

そんなクリスマス気ゼロの私が、せっかくクリスマスなのだからそれらしい記事をと思い、今日は「ジーザス・クライスト・スーパースター」について書きたいと思う。

 

オペラ座の怪人」「キャッツ」など数々の名作ミュージカルを生み出したアンドリュー・ロイド・ウェバーと、「アラジン」「ライオンキング」などディズニー映画の作詞を手がけたティム・ライス。二人の名を世に知らしめた大ヒットブロードウェイミュージカル、それが「ジーザス・クライスト・スーパースター」だ。

 

人間としてのイエス・キリストの苦悩、誰よりもキリストを愛するがあまり過ちを犯してしまうイスカリオテのユダの二人を主軸として、キリスト最後の七日間を描いたロックミュージカル。現代的なモチーフを散りばめた、一切台詞なしのガチ・ミュージカルだ。

 

私が初めてこの作品に触れたのは高校生の頃、レンタルビデオ屋で借りたVHS。

1973年に公開された「屋根の上のバイオリン弾き」で知られるノーマン・ジェイソン監督による映画版のそれだった。

舞台の映画版と思われがちだが実は舞台よりも先に発表された二枚組のコンセプト・アルバムを元にして作られたのがこの映画。

カール・アンダーソンによるソウルフル・ボイスなユダ、奇抜な舞台設定や衣装、何よりテッド・ニーリーの華奢でいて高貴な雰囲気をまとったキリストが最高に格好良かった。

夢中になった高校生の私はさっそくサントラのCDをMDに吹き込んで、木炭でマルスをデッサンしながら何度も何度も聴いたものだ。

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さて、この「ジーザス・クライスト・スーパースター」のDVDは2000年バージョンの舞台を再現した映像作品。舞台の雰囲気はそのままに、役者の細かい表情をすくい上げることに成功している。

中古のDVDショップで見つけ、キリストの笑顔が素敵すぎるパッケージに一抹の不安を覚えたが購入した。

ジーザス・クライスト=スーパースター [DVD]

ジーザス・クライスト=スーパースター [DVD]

 

 安っぽい近未来の雰囲気を持ったセットや中途半端に現代的な衣装は好みの分かれるところだろうか。革ジャン姿のイスカリオテのユダ、タンクトップで登場するキリストに馴染めないようならすぐにDVDを取り出して、おとなしく「パッション」をセットしよう。

かくいう私もテッド・ニーリーのキリストに馴染んでいたため、グレン・カーターのいささか中性的すぎるそれには少し戸惑ったが、見進めていくとやはり役者たちの歌唱力は高く、どの楽曲もいいので見れてしまった。

 

高校生の頃の私が特に好きだった楽曲はピラト提督の尋問を描く「ピラトとキリスト」、ヘロデ王との接見を描いた「ヘロデ王の歌」。…どちらもヴィランソングなのが気になるが、私は単純に楽曲として好きだった(決して反キリスト主義者という訳ではない)。

 

「ピラトとキリスト」のラスボス感溢れる威圧的メロディ、「ヘロデ王の歌」の小踊りしたくなるような小喜劇っぽい楽しさ…。この2000年版のピラト提督は映画版と違って上條恒彦もびっくりのバリトンボイスナチス風の衣装や佇まいがもの凄い。こんな人の尋問だけは絶対に受けたくないと思わせるような迫力だ。

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また、映画版ではフロリダのプールサイドで寛ぐ太った成金みたいだったヘロデ王、今作では派手なキャバレーのオーナー風、歌唱力はさほど高くないがキリストを侮辱しつつ嫉妬する表情は豊かでなかなか良かった。

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ところで30代になった今改めて「ジーザス・クライスト・スーパースター」の楽曲を全て聴いて好みがガラッと変わったことに気づいた。

「最後の晩餐」から「ゲツセマネの祈り」までのドラマチックな流れ、これこそこの作品の到達し得た最高のシーンだと確信した。いろいろ辛い経験を経て大人になった私はどうやらエレゲイアが好きになったようだ。(そういえば「シン・ゴジラ」で街が焼き尽くされるシーンで流れる「Who will know」も大好きだ)

 

「ゲツセマネの祈り」とはキリストが磔にされる前夜にゲツセマネの園で行なった祈りのことで、ものすごーく掻い摘んで言うと神様に対して「あの、私、正直いって磔にされるの嫌なんですけど、本当に私死んだほうがいいんですか?無駄死にではない証拠に、ちょっとでいいから姿を見せてくれません?ダメ?そうですか!もういいよ!わかったよ!死んでやるよ!」という内容の問いかけをするシーンだ(敬虔なクリスチャンの方申し訳ありません)。

人間味あふれるキリストの苦悩をさらけ出した歌唱で、グレン・カーターの絶叫するような、ファルセットボイスが素晴らしい(テッド・ニーリーやスティーブ・バルサモのそれには敵わないかもだけど…)。

 

しかし、敬虔な信者の方からしたらこのミュージカルは相容れないものもあるだろう(実際公開されるたびに色んなところで抗議運動が起きるらしい)

ただ、聖書を読んだこともないし、時々神社をお参りするくらいでまるっきり宗教には疎い、そんな極東の島国の私に「ゲツセマネの祈り」についてちょっとした興味を持つ機会を与えてくれた。それだけでもこのミュージカルの存在価値はあるのではないだろうか。

せっかくのクリスマス、皆様もジーザス・クライストの歌声に耳を傾けてはどうか。映画版もいいです。

 

↓スティーブ・バルサモ版の「ゲツセマネの祈り」。2:55のあたりなんか何度聴いても鳥肌が立ちます。

www.youtube.com

 

 

クリスマスイブです。御法度の裏街道行く独り身の渡世人の私にはまったく関係ないイベントごとです。 ところで、クリスマス映画と呼ばれるものがある。 クリスマスの時期を舞台にした映画の総称で、有名なクリスマス映画で言えば「素晴らしき哉、人生」、「ホームアローン」 ... MORE

クリスマスイブです。御法度の裏街道行く独り身の渡世人の私にはまったく関係ないイベントごとです。

ところで、クリスマス映画と呼ばれるものがある。

クリスマスの時期を舞台にした映画の総称で、有名なクリスマス映画で言えば「素晴らしき哉、人生」、「ホームアローン」、「ナイトメア・ビフォア・クリスマス」などが挙げられる。

しかし、意外にもクリスマスの時期を舞台にしていた名作映画というものも存在する。

鬼才テリー・ギリアムの最高傑作の呼び名の高い1985年公開の映画「未来世紀ブラジル」もそんなクリスマス時期を舞台にした映画の一つである。

 

近未来の行き過ぎた管理社会。情報省に勤めるしがない役人のサムは夢に度々現れる美女に憧れを抱き、その女性を追いかけるに連れて徐々に身の破滅へ向かっていく…。

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「バロン」、「バンデットQ」、「フィッシャーキング」など「夢想と現実」というテーマで様々な映画を作ってきたテリー・ギリアムのひとつの到達点とも言える作品。

この映画の描く近未来では爆弾テロが頻発し、貧富の差は激しい、どんな些細なことにも書類が必要になる、まさに人間性が欠落してしまった悪夢のような未来である。

では、そんななかで夢の女を追いかける主人公サムは人間らしい純真な人間といえるかというと、実はそうではない

満員電車のなかで目の前に身体が不自由な女性が立っているにも関わらず、サムは夢の女をメモに描く事に夢中で席を譲ろうとはしないし、ピンチの時には整形狂いの母親のコネに頼り、レストランで爆弾テロが起きてたくさんの人々が被害を負うなか彼が気にするのは注文したステーキが焼きすぎだということだ。

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そう、この映画の主人公はどうしようもない自己中心的な人間なのだ。この映画を初めて見た頃の幼い私はサムに同情もできたが、大人になり勤労者になった今になってサムに対して思うことは「恋にうつつを抜かす前にちゃんと働け」である。

この映画でまともな人間と言えるのはヒロインのトラックドライバーか、フリーのダクト修理工タトル氏(ロバート・デ・ニーロ)くらいだ。

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また、住宅や街を乱暴にダクトが貫く世界観が面白い。映画のオープニングも最新型のお洒落なダクトのテレビCMだ。国民にとってダクトは無くてはならないあって当たり前の存在であり、その一方でダクトの存在によって国民のすべての行いが政府に「筒抜け」なのだ。それはさながら現代のインターネットのよう。

徹底的に管理された社会で、人々の関心があることといえば何事もルールを強要し、自己の秩序を守ること。レストランのウェイターは意地でも番号で注文させるし、ダクトの修理工は素人の勝手な修理を許さず、伝票に怯える(伝票に対する怯え方がかなり面白いので注目してほしい)。

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そして、何かと話題になるのが問題のラストシーンだが、この終わり方がハッピーエンドなのかバッドエンドなのかは見た人それぞれで考えてみてはどうか。

 

イブで土曜日という事はカップルでTSUTAYAに足を運び「これみよっか〜」「え〜前見たじゃーん」的な会話を展開なさる方もいるのではないだろうか。そんなときにこの「未来世紀ブラジル」を見て二人でアンニュイな気持ちになっては如何だろう。

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イッセー尾形の一人芝居を見たことのある人がこのブログの読者の中に何人いるだろうか。 きっと映画に登場するイッセー尾形は見たことがあっても、イッセー尾形の一人芝居を見たことのある人は少ないのではないだろうか。 何を隠そう私はイッセー尾形の一人芝居の大ファン。 ... MORE

イッセー尾形の一人芝居を見たことのある人がこのブログの読者の中に何人いるだろうか。

きっと映画に登場するイッセー尾形は見たことがあっても、イッセー尾形の一人芝居を見たことのある人は少ないのではないだろうか。

何を隠そう私はイッセー尾形の一人芝居の大ファン。

私の家のDVDラックにはほとんどすべてのイッセー尾形DVDが鎮座しているし、どのDVDも穴があくまで何度も見ている。

もしかすると私の大好きな落語の世界へ誘ってくれたのはイッセー尾形の一人芝居だったのかもしれない。どちらも一人の人間が、それまで観察してきた人間たちの情景を演技によって表現し、ひとつの映像を観客の脳内補完によって作り上げる点においては似ていると言えるのではないか。

 

イッセー尾形の一人芝居の面白さの要因のひとつは彼の演じる人物の抱えるある種のペーソスだと思う。

女子大学生と恋愛している初老の大学教授がカーショップを訪れ、クラウンマジェスタを買おうとするが予算が全く足りなかったり、家族旅行で温泉旅館に来た中間管理職の男の楽しい夕食の団欒は会社からのトラブルの電話で台無しになる…。

運命に翻弄される人物をイッセー尾形が必死に演じれば演じるほど、不思議に可笑しみが湧いてくる。重要なのはイッセー尾形客を笑わせようという意識がないということかもしれない。敬愛する落語家・柳家小三治師匠も「笑わせようとするな」と口を酸っぱくして言っていた。

 

イッセー尾形の作品のなかでいちばん好きなシリーズものは「大家族シリーズ」。妻と不仲で何かとたくさんの子供たちの面倒を押し付けられる男。イッセーがしゃべっているだけなのにだんだんとそのまわりに存在する子供たちの姿までくっきりと浮かんでくるもの凄い舞台です。

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このあとピラミッドの事務所に連れて行かれました。 ... MORE

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このあとピラミッドの事務所に連れて行かれました。

最近、ふと思い立って「西遊記」を読んでいます。おもしろいです。いささか孫行者が強すぎてハラハラしないけど。 最初は岩波文庫の本寸法の本に挑みましたが、読むのにものすごく疲れることが判明し、ワンランク下げて岩波少年文庫版を読んでいます。すごく読みやすいです。 ... MORE

最近、ふと思い立って「西遊記」を読んでいます。おもしろいです。いささか孫行者が強すぎてハラハラしないけど。

最初は岩波文庫の本寸法の本に挑みましたが、読むのにものすごく疲れることが判明し、ワンランク下げて岩波少年文庫版を読んでいます。すごく読みやすいです。

大人としてのプライドなんて無用なもの、日常生活で散々疲れている私はせめて本を読むことには疲れたくないのです。

ちなみに私はラボパーティーで沙悟浄役をやったことがあります。

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↓挫折

西遊記〈1〉 (岩波文庫)

西遊記〈1〉 (岩波文庫)

 

 

 ↓読みやすい

西遊記〈上〉 (岩波少年文庫)

西遊記〈上〉 (岩波少年文庫)

 

 

弱音。 「もう嫌だ」とか「疲れた」とか「死にたい」とか。 皆さんは弱音をよく口にするだろうか。私は結構口にする、朝起きてシャワーを浴びながらの「めんどくさい…」から始まって、大変な仕事から解放されて夜遅くに帰宅した際などは靴を脱ぎながら弱音のオンパレード、 ... MORE

弱音。

「もう嫌だ」とか「疲れた」とか「死にたい」とか。

皆さんは弱音をよく口にするだろうか。私は結構口にする、朝起きてシャワーを浴びながらの「めんどくさい…」から始まって、大変な仕事から解放されて夜遅くに帰宅した際などは靴を脱ぎながら弱音のオンパレード、「なんでこんなことをしなくちゃならないんだ」「もう生きたくない」とブツブツ呟くし、休日の一人篭って数千枚の動画を塗っているときも「めんどくさいめんどくさい」と数え切れないほど呟く。

暑ければ「あっつ」寒けれは「さっむ」、心の赴くままに口が動く。

 

弱音を口にすると気持ちがさらにネガティブになるし、運気も下がるからやめたほうがいい、と何かで見聞きしたのを覚えているが、それでもふと気がつくと弱音が口の端から漏れている。

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私の父はかつてはホテルマンの仕事をしていたが、いまは退職している。

そんな父は高倉健のように剛直で、まるでかつての御家人のような人、驚くべきことに私は父の口から弱音が漏れるのを聞いたことがない

「つらい」「やだ」「痛い」「暑い」「寒い」などのワードを一切言わないのだ。これはなんてことないようで、実はすごいことなんじゃないかと思う。私もそんな父を見習って、寡黙で頑強な男でありたいとは常々思うものの、バルブの緩んだ蛇口のように、知らない間にやはり弱音は漏れ出てしまうのだ。

だって実際に面倒くさいのだから「めんどくさい」と言ってしまうのは自然の道理といえまいか。

以前なにかのドキュメンタリーで宮崎駿氏が「大切なことって大抵、面倒臭いんですよ」と言っていたのを思い出す。確かに、逆に面倒くさくないことはいつもどうでもいいことばかりだ。

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「めんどくさい」と言う代わりに「素敵にハッピー」と、「もうやだ」の代わりに「リリアント!」言うようにすれば多少運気が上がりそうな気がするし、気分も高揚しそうなものなのだが…(友達は減りそうだが)。

ああ、こんなくだらない記事書いている間にも時間が減っていく…、アニメーション制作は遅々として進まないのに…もうやだ…疲れた…めんどくさい…。

 

私は正真正銘のインドア派です。 ... MORE

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私は正真正銘のインドア派です。

寒い季節に聴くのにぴったりな噺「夢金」。   しんしんと雪の降る寒い夜、一軒の船宿に侍とその連れの若い娘が客としてやってくる。金に目のない強欲な男、船頭の熊五郎はいやいやながら二人を乗せて大川へと漕ぎ出すが…。   船頭が主役の噺といえば夏が舞台の「舟徳」が ... MORE

寒い季節に聴くのにぴったりな噺「夢金」。

 

しんしんと雪の降る寒い夜、一軒の船宿に侍とその連れの若い娘が客としてやってくる。金に目のない強欲な男、船頭の熊五郎はいやいやながら二人を乗せて大川へと漕ぎ出すが…。

 

船頭が主役の噺といえば夏が舞台の「舟徳」が真っ先に思い浮かぶが、逆に冬といえばこの噺を思い浮かべます。雪が降ってしんと静まり返った江戸の街を、すーっと屋根船が滑っていく情景を思い浮かべる。揺れる侍と娘の人影…、ドラマチックな古典落語です。

 

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